早稲田中世の会

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2015年度例会のお知らせ

2015年度例会のお知らせ

 

 2015年度春の例会のお知らせをいたします。ご多忙中とは存じますが、是非ともご参会頂きたくお願い申し上げます。

 

 一、日時 二〇一六年三月二十四日(木) 十四時から

 一、会場 戸山キャンパス 三十六号館 六階 六八二教室

 一、研究発表

 

(一)『実材母集』と周辺歌集における物語享受 

                  教育学研究科 修士二年 奥平ちひろ氏

 

 『実材母集』は西園寺公経の妾であった実材母の私家集である。実材母は勅撰集には見えず出仕の経験もない。しかし家集には歌人との贈答があり、娘は勅撰集歌人や女房となった。このように歌壇との関係と距離を合わせ持つ『実材母集』は、専門歌人らの和歌活動を外側から見直すことのできる資料である。源氏取の定着、物語和歌集『風葉集』や『詠源氏物語巻名和歌』の成立など、当時和歌の世界には物語へ興味を寄せる動きがあった。『実材母集』にも物語にまつわる和歌が収められ、『親清四女集』『親清五女集』『政範集』といった実材母近親の私家集にも、同一機会に詠んだとみられる歌群が存在する。物語愛読者としての私的な視点が滲むそれら詠作には、物語歌だけでなく物語本文や内容を重んじる姿勢や、物語の登場人物を題とする題詠歌群など専門歌人にはない特徴が伺える。また各歌集間で表現や発想の共有があり、一族で和歌活動・物語享受を行っていた。

 

 

(二)『大永神書』についての基礎的考察

                    文学研究科 修士三年 山吉頌平氏

 

 白山信仰の拠点の一つであった加賀国白山比咩神社では、最古の加賀側白山縁起『白山之記』を筆頭に多くの文献が作製されたが、その中でもひときわ異彩を放つものが『大永神書』と呼ばれる史料である。これは神がかりした童子の口を通して語られた白山権現の託宣を記すもので、和文体、惜しいことに前半部分が欠落しているのに加えて損傷により判読不明の箇所も多くある。

 本史料については、日置謙氏や由谷裕哉氏による先行研究があるが[1]、その原態や伝来の過程、また後世への影響などについてはまだまだ未解明の点が多く検討の余地がある。そこで本発表ではこれまで注目されてこなかった森田文庫本を用いて『大永神書』というテキスト自体を読解することでこれらの諸問題について考察し、本書が先行研究で想定されていた以上の価値を持つ史料であることを論じていく。

 

 

(三)十二世紀における院権力と歌学書 

                     文学研究科 博士六年 梅田径氏

 

 十二世紀後半には、様々な組織の歌学書が制作された。『俊頼髄脳』は一見無作為に、『奥義抄』中下巻は勅撰集の巻数順、『和歌童蒙抄』は漢籍を模する部類といったように、多様な形式をもつ歌学書が作られ流布した背景には、和歌を取り巻く環境の変化、特に院政の開始と成熟による権力構造の転換があったと考えられる。近年の歴史学研究では、院庁の設置に始まり、人事権、警察権、軍事権の掌握、宗教政策等、鎌倉時代に制度化される様々な権力構造の転換が十二世紀を通じて変容していった事を明らかにしているが、こうした権力の構造と歌学書の多様な形態は密接に関連しているように考えられる。歌学書が奉献され流布するという流通とそれを意識した制作形態が想定される。歌学書の流通という観点から十二世紀における歌学の諸形態を捉えなおしてみたい。

 

 

また、研究発表会の後、懇親会を予定しております。こちらの方も是非御参加下さるようお願い申し上げます。

 

 会場 かわうち

 

 時間 十七時十五分(予定)から

 

 懇親会費 三〇〇〇円

 

 

[1]日置謙校訂『白山比咩神社文献集』(石川県図書館協会、一九三五年)由谷裕哉『白山・立山の宗教文化』(岩田書院、二〇〇八年)